1. 患者家族滞在施設(ハウス)の必要性と、活動の広がり

自宅を離れた専門病院での治療
子どもの闘病生活には付き添い家族が必要

子どもが高度治療の必要な重い病気になったとき、治療できる病院が自宅から通いきれない場所でも、家族は子どものために、その病院に駆けつけます。家族が子どもに付き添うのは、単に治療に関する意思決定をするためだけではありません。入院期間が数ヶ月になることも少なくありません。闘病中の子どもの気持ちを支えるのは、そばに付き添う家族の存在です。

例えば、小児がんの治療では、痛み、食欲の低下、吐き気や全身のだるさなどの辛い副作用が伴い、治療への意欲を減退させることがあります。このような状況のとき、家族がそばにいる安心感が、子どもの治療への意欲を支えます。

そのため、付き添い家族が疲れきってしまっては、治療への子どもの意欲に良い影響を与えません。

 

しかし、家族は、子どもの病気のことだけでも不安が大きいのに、さらに自分の滞在場所のことでも、経済的・精神的・身体的負担を抱えることになります。

家族は、面会時間内に子どもに付き添ったのち、夜は病院の外に宿泊先を求めることになります。ホテルでの連泊や、外食ばかりになり、出費もかさんできます。もし病院に泊まることができても、簡易ベッドやカーテン1枚だけで仕切られた落ち着かない環境での生活になり、身体的にも辛くなってきます。なにより、見知らぬ土地の病院生活では、知り合いもいなく緊張感と孤独感が大きくなりますし、仕事や学校のために地元に残っている家族のことも心配です。

付き添い家族の経済的・精神的負担を軽減する、「病院近くのわが家」としてのハウス

そこで必要になるのが、病院近くで「わが家」のように過ごせる患者家族滞在施設(ハウス)です。

ハウスは、少ない経済的負担で利用でき、プライバシーが守られた環境で、ゆっくり寝たり、料理や洗濯など日常生活に必要な設備も揃っています。

施設によっては、似た境遇の家族同士が交流できるリビングなどの共有スペースもあり、ぬくもりのある「病院近くのわが家」は家族の精神面をサポートすると言われています。

ハウス活動の広がり

世界で最初のハウスは、1972年にアメリカで開設された「ザ・ケビン・ゲスト・ハウス」です。白血病だったケビン少年の家族が始めたハウスです。ま た、1974年には、現在世界30カ国で300箇所以上のハウスを提供している「ドナルド・マクドナルド・ハウス」の第1号がアメリカに開設されました。

さらに、1986年には、米国各地のハウスネットワーク団体NAHHH(National Association of Hospital Hospitality House, lnc.)が設立され、現在、米国には約580のハウスがあるといわれています。

日本のハウス活動も、子どもの病気治療に付き添う家族のニーズから始まりました。1991年に東京・国立がんセンター中央病院小児病棟「母の会」からハウスのニーズが高まり、1993年には、日本で最初のハウス専用施設「かんがるーの家」がオープンしました。(かんがるーの家は、認定NPO ファミリーハウスが運営するハウスの1つです。)

その後、都市部での闘病中にハウスの存在を知った患者家族が、地元で地域のボランティアと一緒にハウスを開設する形で活動が全国に広がりまし た。また、1998年と2001年には、厚生労働省の「慢性疾患児家族宿泊施設の整備」としてハウスの建設費が補助され、病院が直接運営するハウスなど合計39施設が開設されました。その後、企業の社会貢献活動として、ハウスを開設する企業も登場しました。こうして、現在では、全国で約75団体が約125カ所のハウスを運営しています。

付き添い家族の経済的・精神的負担を軽減する、患者家族滞在施設(ハウス)

全国約125施設の運営団体の形態は「財団・NPO・任意団体」「企業のCSR・社会貢献活動」「病院」の大きく3種類があり、いずれも安心して、少ない経済的負担で利用できるよう、非営利でボランティアにも支えられて運営されています。また、病院が直接運営するハウスの一部以外は、行政からの運営費などの支援は一切無く、個人・企業等からの寄付とボランティアの協力によって運営が成り立っています。

1997年より、全国の運営団体が一堂に会して情報交換を図ることを目的にネットワーク会議を開催しています。互いのハウス紹介、運営ノウハウの共有、ハウスの質的向上のための検討、専門家を交えた勉強会などを続けています。

また、2006年1月に福岡にハウス運営団体が集まりハウス運営の方向性が「福岡合意〜私たちの目指すもの〜」によって合意され、成文化されました。

その後、日本におけるハウスの認知度向上の取り組みとして、2007年3月に、ネットワークの名称を「JHHH ネットワーク(日本ホスピタル・ホスピタリティ・ハウス・ネットワーク)」とし、ホームページを開設しました。

これまで、ネットワークとして、ハウスの認知度とニーズの調査や、認知度向上のための全国キャンペーンを実施してきました。また、ハウス運営の質的向上のために、全国のハウス運営者のための研修会を毎年開催しています。

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